おんじょどいの小屋

薩摩狂句道場

適確な言葉と正しい言葉 (「渋柿」第659号より) 永徳天真

 作句では短い17音字の制約の中で、どのように表現するか、その使う言葉や言葉の組み立てに苦労していますが、この言葉の吟味や表現の推敲が、作品の出来上がりに大きく影響してみますので、とても重要になります。
割(わ)れちょいか 魔王(まお)どま一升(いっしゅ) 直(いっ)き空(から)
 上五の「割れちょいか」の誇張がしっくりこないようです。
瓶が割れると一瞬にして中身がなくなrちますので、じゃんじゃん飲んでたちまち一升瓶が空になった状況を、瓶が割れているのかと表現するのは、馴染まないように思います。
 誇張の表現は作句の一つの技法ですが、なるほどと受け入れられる誇張でないと、白けさせてしまうこともありますので注意が必要です。
誇張に変えて、上五をいろいろと考えてみましたが、どうでしょうか?
「け驚(たまが)い」「美味(うん)め言(ちゅ)っ」「競(せ)ろっ飲(ぬ)っ」「遠慮(えんりょ)も無(ね)」

燃(も)ゆいよな 若葉が浮気虫(む)す起(お)けっ
上五の「燃ゆいよな」の表現に引っ掛かりました。
「燃えるような」ですから、紅葉だとぴったりなのですが、若葉との表現の組み合わせについて、考えさせられました。
 辞典を引いてみますと、若葉が伸びることを「萌(も)える」(燃えると書く用法もある)とありますが、この句では若葉の生命力をいう意味合いで「燃える」を使われたと思いますが、「燃える若葉」と、比喩の表現になっている「燃えるような若葉」では、意味が違ってきますので、言葉の吟味が必要だと思います。
次のような表現ではどうでしょうか。
勢(いっ)の良(よ)か 若葉が浮気 虫(む)す起(お)けっ
浮気虫(む)す 萌(も)ゆい若葉が 起(お)きらせっ

後輩に 見下(みさ)げられちょい 短躯(こじっくい)
 中七の「見下(みさ)げる」ですが、他にも同類の言葉で「見下(みくだ)す」「見下(みお)ろす」があります。
見下げるとは見下すと同じ、軽蔑するという意味がありますので、誤解を招くような句になっていると思います。
おそらく背の高い後輩からいつも上から見られていることを詠みたかったのだろうと思いますので、「見下(みお)ろされちょい」でよかったと思います。

退職(やめ)っかい 日々(ひに)っ経(た)っとが 早(はえ)ごたっ
 中七は共通語では「日日が経つのが」で、方言では「日日(ひにっ)が経(た)っとが」です。
「日日が」の助詞「が」をとって、中七としていますが、この大事な「が」をとってしむのは問題です。
五・七・五になるように、話言葉では使われない例えば、「介護(けご)保険」「母(か)い電話」などの文字を省略した言葉は正しくないです。
次のような表現ではどうでしょうか。
退職(やめ)っかい 日が過(す)ぎっとが 早(はえ)ごたっ

借(か)いけ来(き)っ 小言(ぐぜ)も 存分(おてち)き 持(も)たされっ
 上五は「借りに来て」という意味ですが、句の全体から見ると、「借りに行って」という意味の「借(か)いけ行(い)っ」がしっくりするようです。
「来(き)っ」と「行(い)っ」の違いで、本人なのか相手なのか、その目線が違ってきますので注意が必要です。
 また下五のやや固い表現も変えましたが、どうでしょうか。
借(か)いけ行(い)っ 小言(ぐぜ)も 存分(おてち)き 聞(き)かされっ